赤ちゃんの紫外線対策に日焼け止めはいらない

赤ちゃんに対しては日焼け止めを使うべきではないと私は考えています。
「敏感肌の赤ちゃんのためにはどんな日焼け止めがオススメ?人気の日焼け止めは?」というような問いが投げかけられた場合、私はそのような問い自体に馬鹿らしさを感じながら、「敏感肌の赤ちゃんに対して日焼け止めなどは塗ってはいけない」と答えることになるだろうと思います。
ここで、もし「敏感肌の赤ちゃんには、やっぱりノンケミカルの肌に優しい日焼け止めがオススメですし、人気ですよ!」などという答えを平気で返す人が現れた場合、私はそのような回答をする人が自分の赤ちゃんになるべく近寄らないような手立てをとることになるかもしれません。その人が自分の肌の上にそれを塗るのは勝手ですが、あまり関わり合いにはなりたくないものです。
それが日焼け止めである限り赤ちゃんの肌に優しくはない
すべての日焼け止めはケミカルなものです。「すべての日焼け止め」という以上、「ノンケミカル」と呼ばれている日焼け止めもその例外ではありません。
「紫外線吸収剤」が使われていないというだけで、それ以外の化学成分はいくらでも使っていい「ノンケミカル」の日焼け止めは、むしろ、「化学成分まみれのケミカルな日焼け止めである」と言い切ってもいいくらいのものだと私は個人的には考えています。
というより、私は、便宜上こうして仕方なく「ノンケミカル」という言葉を使ってはいますが、「ノンケミカル」という消費者を騙して狡猾な嘘を成立させる言葉を使うことそれ自体を禁じるべきだという立場に立っています。
「お肌に優しいはずの人気のノンケミカルの日焼け止めなのに、どうしてお肌が荒れるの?」というような素朴な疑問を投げかけている人をたまに見ますが、それに対する答えは簡単であり、「ノンケミカルの日焼け止めには紫外線吸収剤以外の化学成分がふんだんに使われているのだから、その何らかの化学成分とお肌の相性が悪かった」のです。
「ノンケミカル」の日焼け止めは言葉だけを見るといかにも肌に優しそうな印象があり、そこを理由にして人気も獲得しやすい日焼け止めですが、その実態はまるで違います。
肌荒れを気にする反ケミカルの日焼け止めユーザーが蛇蝎のごとく嫌っている「紫外線吸収剤」が使用されていないというだけであって、それが日焼け止めであり、化学成分が必ずどこかに含まれている以上、そもそも肌に優しいものではありません。日焼け止めを使う以上、何かしらの刺激は覚悟しなければならないでしょう。
日焼け止めはどれもケミカルであり肌に刺激がある
「敏感肌の赤ちゃんには、やっぱりノンケミカルの肌に優しい日焼け止めがオススメですよ!」というような答えを出す回答者は、「ノンケミカル=肌に優しい」という前提で物事を考えているか、あるいは、商業的な理由などで「ノンケミカル=肌に優しい人気商品」というイメージを死守し、赤ちゃんの肌を傷つけてでも日焼け止めという商品を売ろうとしているかのどちらかであると判断してまず間違いないでしょう。
前者のように「単に知らない」のか、後者のように「意図的」なのかはわかりませんが、そのような前提のもとノンケミカルの日焼け止めを「安全な人気の日焼け止め」としてオススメする姿勢ははっきりいって考えものです。それが「敏感肌の赤ちゃん」に関する話であるならば、もってのほかです。
これは何も「ケミカルの日焼け止めを使うべきだ」という話ではありません。「ケミカル」であろうが「ノンケミカル」であろうが、「赤ちゃんに日焼け止めを使うべきではない」という話です。
また、「ノンケミカルの日焼け止めは危険だ!」などと騒ぎ立てたいのでもありません。「ノンケミカル」が、「オーガニック」であろうが「無添加」であろうが「天然」であろうが、話はそれほど変わりません。
「ノンケミカル」ほど卑怯ではないものの、それらの「オーガニック」や「無添加」と表記されているものでも、それが日焼け止めである以上、肌を刺激する化学成分を避けることはできないのです。
これらの日焼け止めは、「オーガニック」や「無添加」や「天然」の素材を一部使用しているケミカルな日焼け止めだ、と考えたほうが身のためであり、また、それらの言葉に惑わされてなされる無駄な出費も避けられるとは思います。
大人の肌にも悪いものを赤ちゃんの肌に塗るということ
自分自身のアンチエイジングやスキンケアのやりすぎで、それを子供にも施すべきだと考えているのか、最近は、まだ地上に生まれたばかりの赤ちゃんに日焼け止めを塗ろうとする親が急増している傾向があります。「敏感肌の赤ちゃんのためにはどんな日焼け止めがオススメ?人気の日焼け止めは?」というような問いは、そのような場所から生まれてきた愚問なのでしょう。
近年はオゾン層が破壊されて紫外線の量が増したのだからお前らが子供のころとは違って今の赤ちゃんには日焼け止めを塗る必要があるのだ、将来的な皮膚がんのリスク(なんとも気が遠くなる話です)を考えると日焼け止めを塗るべきなのだ、赤ちゃんの肌は大人よりもずっと繊細なのだから紫外線から受ける影響も強くそれを防いでやらなければならないのだ、というような様々な理由で、自分たちのスキンケアを軸に麻痺した頭で物事を考える親は、赤ちゃんの敏感肌に日焼け止めを塗りたくろうとするようです。
私が疑問に思うのは、日々のスキンケアや化粧などを通して、さらには日焼け止めなどの刺激もある程度は知っているはずの親が、どうして大人よりも繊細な肌を持つといわれている赤ちゃんの肌のうえに日焼け止めの刺激をすすんで与えられるのか、ということです。
「肌への刺激が弱い日焼け止め」は「効果が薄い」ということでもあります。「敏感肌の赤ちゃんのために」といって、赤ちゃんの繊細な肌でも耐えられる「刺激が弱いとされている人気の日焼け止め」を塗ったとして、そのような日焼け止めの塗布に、一体、どのような効果があるというのでしょうか。
「紫外線をさえぎる効果もあまりなく、それでいて、なんらかの化学物質が含まれた液体」を肌の上に塗られるということは、これは赤ちゃんの肌の側からみると、「紫外線」と「日焼け止め」の双方のダメージから眺めて、完全に「丸損」であるといわざるをえません。
日焼け止めのリスクは全面的に引き受けなければならない

大人が日焼け止めを使用するとき、「日焼け止めには必ずある程度の『刺激』があり、何かしらの肌荒れを起こす可能性がある」ということを前提にして、それを考慮し、また「覚悟」もしたうえで塗っていると私は考えています(そう信じたいものです)。
「紫外線」と「日焼け止め」のそれぞれの「肌に対するリスク」を天秤にかけたうえで、「日焼け止めのリスク」をあえてすすんで選び、刺激は強いが自分の肌が耐えられる相性のよい日焼け止めを探し出し、肌に刺激が与えられることを重々承知しつつも日焼け止めを塗る。このような覚悟のもとに使用されるのが日焼け止めであり、日焼け止めによる日焼け対策ではないでしょうか。
「日焼け止めのリスク」に対する覚悟が浅く、それでいて「紫外線のリスク」に振り切って日焼け止め全般を諦める程度の勇気も持てなかった気弱な消費者の、「より肌に優しい日焼け止めを」という軟弱な希望につけこんで、「ノンケミカル」というような「持続時間が短く、肌から落ちやすく、効果も薄いから何度も塗り直さなければならないが、化学成分はしっかり使われている日焼け止め」が生み出され、「これはケミカルの日焼け止めに比べて安全ですよ、敏感肌に優しいですよ」というイメージ戦略が流通する流れが形成されています。
これらの「中途半端なリスク回避」の思考につけこんだイメージ戦略は、「ノンケミカル」を嚆矢として、「オーガニック」や「無添加」の日焼け止めなどに繋がり、そして、「飲む日焼け止め」というような「ほとんど日焼け止めの効果がない日焼け止めサプリ」の地点にまで進んでいるというのが私の認識です。
日焼け止めは「お化粧」の延長である
日焼け止めを使った日焼け対策というのは、日焼け止めによるリスクを回避することではなく、そのリスクを引き受けた上で「美白」を求める行為であって、基本的には「美容」でしかありません。それは大人の領域にあるものです。日焼け止めにイメージ戦略がつきものなのは、それが「美容」の市場の上にあるものだからです。
「日焼け止めは『美容』だけを目的に使用しているのではない。紫外線による皮膚がんリスクなどを回避するために使用しているのだ」などと言いだす人も多いですが、そういった大義名分は、「日焼け止めを使用することによる皮膚がんリスク」と言い換えられてしまうものなので、「紫外線を浴びても皮膚がん、日焼け止めを塗っても皮膚がん」であり、まったくもって無効であると言わざるをえません。
日焼け止めによる日焼け対策をする人がいくら「お肌の健康のため」などと主張しようとも、私は、日焼け止めは「美容」に属するものだと考えています。重度の紫外線アレルギーなどで生活に支障が出るためにやむなく日焼け対策をしなければならない人を除いて、日焼け止めの使用は基本的には「お化粧」の延長です。
赤ちゃんに「お化粧」は不要である
「敏感肌の赤ちゃんのためにはどんな日焼け止めがオススメ?」という問いは、極端な言い方かもしれませんが、「敏感肌の赤ちゃんにばっちりメイクを施してから外出させたいのですが、どんな化粧品がオススメですか?」と聞いているようなものです。
冒頭ですでに結論として出しました「赤ちゃんに対しては日焼け止めを使うべきではない」という私の考えは、「赤ちゃんに対して大人の領域にある『美容』のための『お化粧』を施すべきではない」というふうに言い換えて補足することが可能でしょう。
ここで注意してほしいのは、この「赤ちゃんに対して日焼け止めを使うべきではない」という考えは、「赤ちゃんには日焼け対策の一切が不要である」ということをまったく意味しません。むしろ、私は「日焼け止めを使わない日焼け対策であれば赤ちゃんに施してもいい」と考えているくらいです。
日照時間を考慮し肌の露出を極力抑えた服を着せる外出、ベビーカーの日よけ、日傘などの使用、直射日光をさけた適度な外気浴、適切な栄養の摂取によって「日焼けしにくい体質」をつくる食育などの、「日焼け止めを使用しない日焼け対策」は、「赤ちゃんの日焼け対策」として充分に有効であると思います。
これらの、赤ちゃんのための「日焼け止めを使わない日焼け対策」に、「日焼け止めの塗布」をわざわざ追加させる必要はまったくありません。日焼け止めは、赤ちゃんの健康のためにあるのではなく、大人の「美容」、「美白」を目的とした「お化粧」の領域にある商品であるからです。
美容に振り回されるのは大人だけでよい

美容、化粧品業界の商売のイメージ戦略につきあい、それに振り回されるのは、自分の欲望で「美白」を志向し、「美白」を獲得して維持しようとするために日焼け止めを使うことを決意する大人だけで充分です。
しかし、私が「そんなのは『美白』だ、大人の話だ」といくら言ったとしても、「紫外線が怖い。あまりにも怖すぎる」という強い恐怖と「美白」への欲望を同時に抱いてしまって区別がつかなくなっている親が、赤ちゃんの肌のうえに日焼け止めを塗ることを止めることは決してできないでしょう。また、それを止める権利も私にはありません。
「紫外線のリスク」と「赤ちゃんに日焼け止めを使うリスク」を天秤にかけて、熟慮の末に「赤ちゃんに日焼け止めを使うリスク」がとられたのであれば、こればかりはもう仕方ないことです。日焼け止めを塗られる赤ちゃんの肌の健康を祈ることだけはひっそりとさせていただきますが、余計なおせっかいで他人の家庭のことに首を突っ込むことは避けなければなりません。
それにしても、近年の、ついに赤ちゃんにまで波及した「日焼け止め」の潮流には動揺させられます。
来世は、日焼け止めなどを使わなくて済む地底人として生まれ、地底で陽の光をまったく浴びない暮らしができるといいのでは、と考えてしまいます。あるいは、来世とはいわず、現世においても、日焼けを過剰に気にする人たちが穏やかに暮らしていけるような地底の都市計画が練られることが期待されます。